UX
UXとは?なにをすればいいの?メリットは?
UXは「ユーザーエクスペリエンス」の略称です。私は2003~2018年まで大手総合電機メーカーのUX専門部門に所属し、UX向上のための実践プロセスに関する研究活動と実案件での実践を行ってきました。
今やUXという言葉に馴染みのある方も多いかもしれませんが、私がUXに関わり出した当初は「UXってなに?メリットは?」という説明を最初にする必要がありました。今は聞かれないですが、今さら聞くのも、という感じであって本当の意味が分かっている方は少ないのでは、と思います。
UXは、UIをよくすることだと思っている人も多いのではないでしょうか。それは間違いではないですが、イコールではありません。ここでは広義のUXと、その意義について説明したいと思います。
UXとは
UXとは、・・と私の解釈を説明する前にwikipediaで調べてみたところ、「専門用語としてのユーザーエクスペリエンスには広く合意された定義が存在しない」と書かれてました(笑)
まあ、そうなのかもしれません。そのため、以下は私の言葉であり、私の中での定義です。
UXとは、製品やサービスを利用する前から始まり、
利用した後まで続く一貫したユーザーの経験のことをいう
なお、現アップル社にいた認知心理学者のノーマンと、ユーザビリティ研究の第一人者であるニールセンが共同で設立したNielsen Norman Groupという会社があり、ホームページの中でUXの定義を示しています。そちらも気になる方は見ていただければと思います。
また、GoogleはUXを重視しており、検索エンジンの検索順位決定の指標の一つとしてUXを扱っていることを明言しています。
ページ エクスペリエンスの Google 検索結果への影響について
UXの優れた製品、サービスの例
私の中では分かりやすい例として、機械式時計があります。
比較項目 | 機械式時計 | クォーツ時計 |
---|---|---|
初期費用 | 高い | 安価 |
維持費 | 高い | 安価 |
正確性 | ずれる | 正確 |
重さ | 重い | 軽い |
デザインの自由度 | 大きいという制約 | 制約が小さい |
UXはとにかく定義が広いのですが、低価格という価値と、性能自体は含まれない、というところに異論がある人は少ないはずです。それらで比較したときに、機械式時計がクォーツ時計に勝っているところはないはずなのです。ではなぜ機械式時計を好む人がいるのでしょうか?
- ブランドに感じる価値(ブランド力)
- 贈り物なら機械式時計、と考える
- 購入前のドキドキ感、ワクワク感
- 使用時に毎朝手巻きをする際、面倒ながらも愛着がわく(愛着というのはUXとして大きいと思っています)
- 定期的なメンテナンスをしてまでも維持する満足感
これらの価値は、すべてUX価値に含まれるといってもいいと思います。機械式時計はUX価値が高いので、その価値に高い値段がついているのです。
UXというとハードウェアではなくソフトウェアやいわゆるサービスのほうで考える方が多いと思いますが、同じように、性能や機能では他に負けているのに、より高い価格で提供できているサービスを思い浮かべてみてください。たくさんあると思いますが、やはりアップル社の製品、サービスはすぐに思い浮かびますね。時計つながりで述べれば、Apple WatchもUX価値の高い製品、サービスだと思います。よく事例として使われると思いますが、ディズニーランドはUX価値が高いと思います。例えばですが、ディズニーランドって外の景色が見えないですよね。異空間を感じさせるデザインがされていると思います。
要件定義において考えるべき「顧客が本当に望むもの」
次の画像は「顧客が本当に望むもの」を語るうえでよく使われるものであり、UXデザインの話としてもよく引用されます。
引用:
https://www.casleyconsulting.co.jp/blog/engineer/4334/
https://hourigan.ie/
これは、
- 顧客が「自身で説明する望むもの」と、「本当に望むもの」は必ずしも一致しないし、そのことについて顧客自身、自覚はない
- 「顧客が説明した望むもの」の解釈は、人によって異なってしまう
ということを揶揄した絵です。
とても有名な絵なので示しましたが、正直あまり私としては分かりやすい話ではないので、もう少し分かりやすい話をすると、
「ドリルを買いにきた人が欲しいのはドリルではなく『穴』である」
引用:レビット著書『マーケティング発想法』(1968年)
というのがあります。これは分かりやすいですよね?
ちなみに私はDIYをやるので、電動ドリルを持っています。
どうして電動ドリルを買ったでしょうか?
- 家具を自分で作りたいから
- そのために木にネジを打つが、たくさん打つのが結構疲れる
- ネジは、表面に出ると格好は良くないので、ダボで結合したくて、そのためには一定の深さの穴が必要
私の場合は、ドリルを買う決定打となった理由は(3)だったと思います。
ネジをドライバーでたくさん打つのは疲れるというのもあるのですが、私の場合、そこまで頻繁にDIYをやるわけではないので、それだけでは買うに至らなかった。ただダボを使おうとなってから買うことを決めました。ダボを入れるための穴を作るとなると、ドリルが必要になるのです。ちなみに、そのために必要な道具を調べるのは結構時間がかかったりもしました。ドリルだけあればよいわけではないのです。興味がある方は調べてみてください。
ここで私が言いたいのは、私がドリルを買った理由は「穴が欲しいわけでもなかった」ということです。ダボを使いたいからであって、どうしてダボを使いたいかというと、上述の通り、「ネジの頭が表面に出ると格好が良くない。格好良くしたい」なのです。つまり、ボンドという手段の選択肢もあるわけです。そうしない理由は、脱線していくので省略しますが。
ダボで結合するために必要なものを調べるのに結構な時間がかかったと述べたのは、インターネットが普及した今でも、まだまだ課題があると思うからです。もっと目的ベースで情報が探しやすくなってるとよいのですが。
さて、私はUXデザインの専門家なので、こうして私がどうしてドリルを買ったのか語れるんですが、どうして?とだけ聞くと結構端的な回答が返ってきがちです。「家具作るから」ってなったりしますよね。そこで引き下がってはダメです。深堀が大事です。
私が会社員だった頃、顧客が「ホームページの問い合わせフォームの完了画面が、問い合わせ種別が違っても同じであるのが困る」とおっしゃいました。
これを聞いて、「URLを分けられるか検討します」と回答して終わるのはダメです。
理由を聞きます。
でも、「どうしてですか?」だと顧客が答えに窮することもありますし、聞きづらいですよね。
その場合、思いつく理由を言ってみるのが一つの手です。
「問い合わせ種別ごとに問い合わせ数を把握したいのでしょうか?」
「はい、そうです」
「では、URLが同じだとしても、問い合わせ種別ごとの問い合わせ数を示せるようにすればよろしいでしょうか?」
「それは嬉しいですが、流入経路によるコンバージョン率も知りたいのです」
顧客は、手段が頭に浮かぶので、それを伝えてきます。
ただ、本当に望むものを聞いても、簡単にはわかりません。あえて、別の手段を考えて伝えてみるのも一つの手です。こういった会話で顧客が本当に望むものが見えてきます。
さて、少し話を戻しますが、私が電動ドリルを買った理由は何でしょうか?
「ネジの頭が表面に出ると格好が良くない。格好良くしたい」
でしたね。
これを聞いて納得してはいけません。
「じゃ、そういう家具買えば?」
とぜひ聞いてください(もちろん、言い方は気を付けましょう)。
安く済ませたい、というのもありますが、
結局私のようにこだわると、それほど既製品と変わらない結果に落ち着くこともあります(笑)
他に、寸法的に自宅に合わせて決めたものにしたい、というのもありますし、
自分が考えたデザインで作りたい、ということとか、
子どもと一緒に作って楽しむ、というのもあります。
「自己満足」という表現が正しいかは分かりませんが、DIYというのも経験価値がつまってますよね。
UXデザインというのは、ヒアリング能力がとても求められます。
さらに、観察能力も望まれます。人の行動の90%以上は無意識の行動だと言われています。
無意識の行動は、聞いたところで出てきません。無意識なので。
「あれ、そんなことしてた?」なんて会話したことがないでしょうか?
観察して初めてわかることがあります。そのとき、その行動の理由を聞いてみると、ビジネスのヒントが見えることがあります。
行動自体は観察しないと出てこないですが、
その行動を取っていたことをご本人に伝えれば、
理由は語れることもあります。
ひとつ考えるネタとして。
スマートフォン一つで様々な情報が得られる今でも電車で新聞を広げて読む方っていますよね?
気にして見てみると、まだ結構いることに気づきます。
どうしてだと思いますか?
ユーザビリティとUX
特に高機能なソフトウェア、とりわけ業務用システムでは、UXの価値の中で占めるユーザビリティの割合が大きいです。しかしながら、ここまで述べてきたようにUXの定義が広いがためにユーザビリティをUXと切り離して考え、ユーザービリティ以外に重点が置かれやすいと感じています。
UXの中にユーザビリティは含まれます。どんなに高機能でも、使い方がわからなければ、その機能が提供できるはずの価値は提供できません。
そのとき、その機能は存在しないに等しいです。
そうですよね?
その機能が存在しないということは、その機能をせっかく開発したのに、価値は0円です。
機能が多いとユーザビリティは低下しやすので、むしろマイナスの価値にもなるリスクもあります。
使い勝手、利用上の心地よさは価値として大きく、購入前はその視点を持てなかった、という人でも、悪い経験をしたために、そこを重視して選ぶ人が増えているはずです。業務用システムでは、ユーザビリティに重きを置くようにすべきだといえます。UXの概念がこれだけ普及した背景には、高機能な業務用システムが増えてきたことが一つあると思います。そのためこの点を強調しました。
そして、ユーザビリティは見た目のデザインも非常に重要ですが、それ以上に用いる「文言」に留意すべきです。専門用語をそのまま使っても、ユーザーはわかりません。しかし、「ユーザーがわからないということがわからない」のが開発者です。そのため、ユーザーテストを一度は経験しておくことをおすすめします。ユーザーテストは、何度も実施するに越したことはないですが、0回と1回の違いが大きいです。というのは、1回でも目のあたりにした人は「ユーザーがいかに自分の想像と乖離するか」を理解しやすいからです。その状態の開発者と、そうでない開発者では、アウトプットの品質に差が生じます。
UX向上のための活動
それぞれ、気が向けば別で記事を書きますので、ここではリストアップだけいたします。
私は以前、ユーザーテストを100回くらいは実施/観察したように思います。
『わかりづらい感じはするけど、そのうち慣れるし、たぶん大丈夫だろう!』とユーザーテストの経験がないサービス提供者側が思ったところは、壊滅的な結果になると考えた方が良いと思っています。
なお、最近ユーザーテストをしてないので、依頼をいただければ喜んでお受けします。
調査手法
- ユーザーテスト/ユーザビリティテスト
- ヒューリスティック評価
- 認知的ウォークスルー法(エキスパートレビュー)
- アンケート調査
- デプスインタビュー/グループインタビュー
- エスノグラフィー(現場観察、分析)
分析方法、プロセス
- 調査結果をもとにした潜在ニーズの分析
- ペルソナ(ターゲットユーザーの明確化)
- カスタマージャーニーマップ
まとめ
いかがでしたでしょうか?
このようにUXについて学んできた経験を活かして、ターゲット策定から、わかりやすいホームページの制作を行います。また、ご要望があれば、UXに関する座学や、体験セミナーなども企画して実施させていただきます。
BringFlowerにぜひお気軽にご相談ください!