UX
初心者にも分かりやすく、カスタマージャーニーマップの作り方と効果的な活用方法を紹介!
カスタマージャーニーマップはマーケティング、サービスデザインの分野がルーツと言われ、現在では製品・サービスの開発現場で広く活用されています。
私も企業のUXデザインの専門部門に所属していた頃によく活用していました。プロジェクト関係者が多いときに特に有効なフレームワークです。私自身の経験も踏まえて、どのように作り、どのように用いるのが効果的であるかご紹介します。
カスタマージャーニーマップとは?
カスタマージャーニーマップは、顧客が製品・サービスを認識し、購入/利用し、アフターサービスを受けるといった一連の体験と、製品・サービスとの関わりをまとめるためのフレームワークです。
横軸を時間軸とします。製品・サービスを「利用する前」、「利用/購入するとき」、「利用/購入後」の大きく3段階に分けて捉えると分かりやすいでしょう。
縦軸は、以下の4つのポイントは最低限おさえるべきものとしてあります。
項目 | 説明 |
---|---|
タッチポイント | 製品・サービスと顧客との接点となるポイント |
顧客の思考 | その時に顧客が考えていること、気持ちを事実ベースで |
顧客の行動 | その時に顧客が行っている行動を事実ベースで |
ビジネス課題 | そのフェーズにおいて、存在するビジネス上の課題を考察して記述 |
カスタマージャーニーマップのAs-IsとTo-Be
上述のように、まずは事実ベースで顧客の行動と顧客の思考をカスタマージャーニーマップにまとめます。それをAs-Is(現在のありのまま)として捉え、ビジネス課題を抽出したうえで、同じフレームワークでTo-Beをまとめ、As-IsとTo-Beの両方を作る、ということを行うのも効果的です。
カスタマージャーニーマップの歴史
カスタマージャーニーマップは、顧客の体験を理解し、改善するために使われてきました。
カスタマージャーニーマップのルーツはマーケティングとサービスデザインの分野です。特に1980年代に、顧客の経験や行動をより深く理解しようとする動きが強まりました。この時期、マーケティング研究者やサービスデザイナーは、顧客の購買行動やサービス体験を視覚的に表現する方法として、さまざまなモデルや図を開発し始めました。
1990年代に入ると、インターネットの普及とともに顧客体験の理解がさらに重要になり、カスタマージャーニーマップのようなツールが広く使われるようになりました。これらのマップは、顧客が製品やサービスを知る初期段階から、購入後の関係維持に至るまでの一連のプロセスを追跡し、分析するために使用されました。
21世紀以降、デジタルテクノロジーの進展に伴い、カスタマージャーニーマップはさらに洗練され、多様化しました。顧客の行動や感情をより詳細に捉え、多角的な分析を可能にするツールとして進化し続けています。
特にカスタマージャーニーマップに明確な起源というのはなく、顧客理解の必要性とともに徐々に発展してきたという経緯です。現代のマーケティングやサービスデザインでは、このツールが非常に重要な役割を果たしています。
参考:The Fundamentals of Customer Journey Mapping, and Why Businesses Need It Now
カスタマージャーニーマップを作る目的・メリット
カスタマージャーニーマップを作る目的、メリットは主に以下の5つあります。
プロジェクト関係者が共通の認識を得る
煩雑な顧客の体験を視覚化し、プロジェクト関係者が顧客に対する理解を深め、共通の認識を得るうえで有効です。
様々な局面にプロジェクト関係者が気づく
プロジェクト関係者がそれぞれに、ある局面だけに頭がいってしまい、人により想定する局面が異なるといった問題を解消させるのにも役立ちます。
新たな課題に気付く
プロジェクト関係者の誰も気づいてなかった新たな課題に気付く可能性もあるでしょう。
一貫性のあるサービスを検討できる
大規模な製品・サービスとなるとフェーズごとに担当者が分かれるということもあるでしょう。例えば営業とサポートとの繋がりが希薄なケースもあります。
カスタマージャーニーマップにより、担当者が分かれていたとしても一連の流れをそれぞれが意識し、一貫性のある体験を顧客に届けることができるようになります。
顧客視点を持つ
顧客が何を考え、どう行動するのかといった顧客視点で製品・サービスの提供価値を検討することができるようになります。
カスタマージャーニーマップの作り方
それでは、具体的な例を交えてカスタマージャーニーマップの作り方について解説します。
ここでは、みなさんが馴染みがあり、理解しやすいように都心にある「歯科医院」を例に考えていきます。
ペルソナの設定
まずは、対象とする顧客像を明確にします。年齢、ミッション、目標、経済力、趣味、性格などをできるだけ具体的に定めます。これをペルソナと呼びます。
そうすることで、調査ベースで明らかになってないことがあったとしても、「この人ならきっとこうするだろう」という推測が精度高く行えるようになります。
また、顧客像の議論の余地を減らすということもあります。「こうじゃないか」という意見があったときに、ペルソナはこの人だから違います、と明確にしてスムーズに議論が進みやすくなります。
なお、ペルソナは必要な数だけ作るべきものであり、カスタマージャーニーマップもペルソナの数だけ種類があるべきと言えます。
ペルソナの作成例
名前 | あかり |
---|---|
年齢 | 46歳 |
職業 | マーケティングマネージャー |
住まい | 東京都武蔵野市 戸建て |
家族構成 | 夫と二人の子供(10歳と8歳) |
趣味 | 園芸、読書、ヨガ |
性格 | 積極的で計画的、家族思い |
状況 | 最近歯が痛み始め、歯医者に行こうとしている。忙しさからここ数年は歯医者に行っておらず、現在の居住地で歯医者に行くのは初めて。 子供たちの学校行事と夫の仕事のスケジュールを調整しながら、歯医者の予約を取る必要がある。 |
フェーズの設定
対象とする製品・サービスに合わせて、フェーズを設定します。「利用前」「利用中」「利用後」の大きく3つで捉え、その中を詳細に考えていくと良いでしょう。
ここでは歯医者に通う人を例として、「認知」「比較・検討」「決定・予約」「利用」「情報確認」「リピート」の6つで設定して考えてみます。
顧客の思考をフェーズごとに洗い出す
フェーズごとに、顧客の思考を洗い出して書き出していきます。嬉しいこと、悲しいこと、安心、不安など感情ごとに洗い出すと良いでしょう。
実施例
認知 | 歯が急に痛み出したから歯医者に行かなければ。 平日は忙しいから会社の近くではなく、家の近くで土曜日でも行けるところがいい。 混んでないところがいい。 |
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比較・検討 | 評判が気になる。 1本の歯を治すのに何度も通わされるところは嫌だ。 できるだけ家の近くで探したい。 予約が取りやすいところがいい。 すでに歯が痛いから、できるだけ早く予約したい。 |
決定・予約 | 簡単に予約できると嬉しい。 |
利用 | 初めて通う歯医者だから少し緊張する。 予約したのに少し待たされた。 歯医者の音は苦手だ。 ついでに歯垢を取ってくれるのはありがたい。 3カ月に1回程度は歯垢を取った方が良いと言われ、その通りだと思う。 歯のホワイトニングもしたいと思った。 |
情報確認 | 治したと聞いたが、しみる。大丈夫だろうか? |
リピート | 3カ月経ったが、やはり歯医者に予約を入れるだけでも面倒だ。 |
顧客の行動をフェーズごとに洗い出す
フェーズごとに、顧客の行動を洗い出して書き出していきます。顧客の思考も踏まえて抜けがないか考えると良いでしょう。
実施例
認知 | Googleで「吉祥寺 歯医者」と検索。 上位から順番にいくつか見てみる。 |
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比較・検討 | Googleマップの口コミを確認。 「吉祥寺 歯医者 評判」と検索。 比較記事を見つけたので見てみる。 土曜日にやっているところで絞り込んで見てみる。 |
決定・予約 | 3つに絞込み、それぞれ予約できるか見てみるが、人気のところはだいぶ先まで埋まっている。 とりあえずそれぞれに電話してみる。 すぐに行けるところが見つかったので予約を入れる。 |
利用 | 近いので自転車で行ったが駐輪場がないので近くの駐輪場を用いた。 少し待たされたので、その間はスマートフォンを見て暇つぶしをした。 以前の治療内容のことを聞かれたが覚えてない。 |
情報確認 | 治したのにしみたので、そういうことがあるのかネットで検索して調べてみた。 |
リピート | 定期的にいかなければという気持ちにはなっていたが、結局問題がない限り行かない。 |
ビジネスの課題を洗い出す
フェーズごとに、顧客の行動および思考を踏まえたビジネス上の課題を洗い出します。
実施例
認知 | Googleで上位を獲得する。 近隣の人に認知してもらう。 |
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比較・検討 | 良い口コミをたくさん集める。 土曜も診察しているということをアピールする。 |
決定・予約 | 気軽に予約できる方法を提供する。 |
利用 | 駐輪場の確保。 できるだけ待ち時間を作らない。 待ち時間に有益な情報を提供する。 嫌な音だけ「かき消す」技術。 治療内容の医療機関間における共有。 |
情報確認 | 診察後のサポートサービス。 |
リピート | 診察後に受信した人とのタッチポイントを作る。 |
To-BEのカスタマージャーニーマップを作る
ビジネス上の課題に対して施策を洗い出し、それを実施した場合の顧客の行動と思考を想定してまた洗い出します。そうして、As-Isのカスタマージャーニーマップが、施策を実施することでどうなるのか、To-Beのカスタマージャーニーマップを作ります。
カスタマージャーニーマップを作るうえで参考となるフレームワーク
カスタマージャーニーマップを作成する際に参考になる主要なフレームワークとして、以下のものがあります、
AIDAモデル(Attention, Interest, Desire, Action)
AIDAモデルは、顧客の注目を引き、興味を持たせ、欲求を生じさせ、最終的に行動に移すまでのプロセスを示します。顧客の購買プロセスを理解し、効果的なマーケティング戦略を構築する際に有用です。
- Attention (注意)
- ターゲット顧客の注意を引き、興味を喚起します。これは広告、キャンペーン、あるいは目を引くコンテンツを通じて行われます。
- Interest (興味)
- 消費者の興味を惹きつけ、製品やサービスに関する情報を提供します。ここでストーリーテリングや詳細な製品情報が重要になります。
- Desire (欲求)
- 興味をより深い欲求へと変換します。製品の利点や消費者の欲求を満たす方法を強調し、製品への個人的な関連性を強化します。
- Action (行動)
- 最終的に消費者に購買やサインアップなどの具体的な行動を促します。割引、特典、締切などを用いて行動を促進することが一般的です。
5Esフレームワーク(Entice, Enter, Engage, Exit, Extend)
5Esフレームワークは、顧客体験を改善するために設計されたモデルで、次の5つの段階で構成されています。このフレームワークは、顧客の体験を全体的に考慮し、各段階での最適な戦略を策定するのに役立ちます。
- Entice (誘引)
- 消費者の関心を引き、ブランドや製品に対する好奇心を刺激します。これは、魅力的な広告やマーケティングキャンペーンを通じて行われます。
- Enter (参入)
- 消費者が実際に製品やサービスと対話する段階です。ここでは、ユーザーインターフェースやカスタマーサービスが重要になります。
- Engage (関与)
- 消費者が製品やサービスを使用し、ブランドとの関係を深める段階です。エンゲージメントは、製品の品質、カスタマーサポート、コミュニティなどを通じて促進されます。
- Exit (退出)
- 消費者が製品やサービスの使用を終える段階です。この段階では、良い印象を残すことが重要で、例えばスムーズなチェックアウトプロセスやフォローアップのメールなどが役立ちます。
- Extend (拡張)
- 製品やサービスの使用後も顧客との関係を維持・拡張する段階です。これには、ロイヤリティプログラム、フォローアップコンテンツ、アップセルの機会などが含まれます。
ブランド体験フレームワーク
ブランド体験フレームワークは、消費者がブランドとの相互作用を通じてどのように体験を形成するかに焦点を当てるモデルです。ブランドが消費者にどのように知覚され、体験されるかを理解し、最適化するために使用されます。以下の主要な要素から構成されます。
- ブランドアイデンティティ
- ブランドの核となる価値、使命、ビジョンを定義し、消費者に伝えます。
- ブランドコミュニケーション
- 広告、プロモーション、ソーシャルメディアなどを通じてブランドメッセージを伝えます。
- ブランド環境
- 店舗のデザイン、ウェブサイト、製品のパッケージングなど、ブランドが物理的にどのように現れるかです。
- 顧客エンゲージメント
- 顧客との相互作用や関係構築を通じてブランド体験を形成します。
- フィードバックと測定
- 顧客のフィードバックを集め、ブランド体験を測定・改善します。
カスタマージャーニーマップの活用事例
Rail Europeの活用事例
旅行会社のRail Europeは、鉄道チケットをオンラインで簡単に予約できるサービスを提供しています。チケットの購入前、購入中、購入後のカスタマージャーニーマップを作成することで、予約前の体験から、旅行後の払い戻し、おすすめの共有、SNSでの写真公開に至るまでのタッチポイントを見出し、カスタマージャーニーが旅行後にも継続しているということをプロジェクトチームに明確に意識づけることに成功しました。
Spotifyの活用事例
音楽配信サービスSpotifyは、サードパーティアプリを介したプレイリストの共有という 1 つの特定の機能のタッチポイントを追求することに重点を置きました。
カスタマージャーニーマップ作成のために実施した調査で、ユーザーが音楽の嗜好を判断されることについてのためらいや、そもそも機能の存在を知らなかったといった課題が見つかりました。
Signavioの活用事例
Signavio Customer Journey Modelerというサンプルの製品検索が可能なサービスの利用プロセスを示しています。フェーズごとに、ストーリーボード、問題点、目標、顧客の言葉、センチメント、およびタッチ ポイントが示されています。
スターバックスの活用事例
スターバックスはスマホアプリの顧客体験向上を目的として3種類のペルソナを作成し、それぞれカスタマージャーにマップも作成しました。そして、以下のような課題を見出した。
- 待ち時間がない、最も空いているスターバックスを選択する方法を示す。
- 支払い手続きが煩雑であるため、顧客は簡単な支払い方法を必要としている。
- サインアップのプロセスが面倒なため、顧客はスマホアプリにサインアップするためのより簡単な方法を必要としている。
JCBの活用事例
JSBはクレジットカード入会初期の顧客体験改善に取り組んだ際に3時間のワークショップを行った。その結果を踏まえ、入会後のメルマガ配信タイミングのミスマッチを改善し、会員専用Webサービスへのログインページクリック率が向上した。
カスタマージャーニーマップ利用上の注意点
ペルソナやカスタマージャーニーマップはうまく活用できないというケースも生まれやすいです。以下のような点に注意しましょう。
ペルソナが抽象的すぎる
ペルソナが抽象的すぎると、一貫性のあるストーリーにならなかったり、カスタマージャーニーマップも抽象的な内容で終わってしまうことがあります。できるだけ具体的にするようにしましょう。
1人のペルソナに固執してしまわない
ペルソナは必要な数だけ作り、優先順位を立てることが重要です。ペルソナによってその顧客の体験は変わるので、どのようなペルソナの体験を優先的に考えるのか、最初に決めておくことが重要ですし、必ずしもターゲットとすべきペルソナは1人とは限りません。
作り込みすぎない
ペルソナやカスタマージャーニーマップを作ることが目的ではないので、あまりそこに時間をかけすぎず、プロジェクトの性質やメンバーに応じて、必要最小限のステップを踏んで本来の目的を達成するために必要なものを作るようにしましょう。
事実ベースのデータが少なすぎる
As-Isのカスタマージャーにマップも、すべてを事実で固めなければならないということはないですが、できるだけ調査などを行い、事実ベースで作り上げていくべきです。そうでなければ事実と乖離してしまうリスクがあります。
定期的に見直す
ペルソナもカスタマージャーニーマップも、世の中の変化や、製品・サービスのゴール設定に応じて定期的に見直すことが重要です。
まとめ
カスタマージャーニーマップは、顧客の利用前から利用/購入中、利用後に渡る体験を視覚化し、あるべき姿を検討するために有効なフレームワークです。
とりわけ複雑なシステムで関係者が多い場合には取り組むことで関係者が共通の課題認識を持つというメリットも生まれやすいと言えます。