AI(人工知能)

画像・イラスト生成AIの商用利用と著作権で気を付けるべき点は?

画像・イラスト生成AIは商用利用できるものと、そうでないものがありますので、まずその点に注意が必要です。商用利用する際には、他者の著作権を侵害するリスクも気を付ける必要があります。

とはいえ画像・イラスト生成AIは、ウェブサイトやプレゼン資料など、様々な領域においてこれまで必要としていた工数や料金を大幅に削減する可能性を秘めており、ぜひとも、活用していきたいツールです。

この記事では、画像・イラスト生成AIについて、守るべきことは守ってうまく活用するための注意点について解説します。

画像・イラスト生成AIとは?

現在の技術の進歩は目を見張るものがあります。その一角を占めるのが、画像・イラスト生成AIです。画像・イラスト生成AIとは、機械学習やディープラーニングの技術を駆使して新たな画像やイラストを生み出すAIのことを指します。具体的には、ユーザが入力したテキストやパラメーターを基に、それまでに学習した大量のデータをもとにして、全く新しい画像やイラストを生成する技術です。このようなAIは、クリエイティブな分野での利用が注目されていますが、法的な側面での注意事項も重要になってきます。

AIによる画像生成は、主にニューラルネットワークによって行われます。これは人間の脳にある神経細胞(ニューロン)の網のようなもので、様々な層を経由して情報が処理されます。ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる多層のニューラルネットワークを利用することで、より複雑で高品質な画像を生み出すことができます。適切な学習を重ねることにより、よりリアルで細部までこだわった画像を生成する能力を持っています。

画像・イラスト生成AIは、学習の元にしている画像やイラストがあるということは、著作権を考えるうえで重要なポイントのひとつです。学習元としているのは、主にインターネット上にある画像やイラストです。

著作権とは?

画像生成AIの商用利用を考えるうえで、考慮から外せない著作権について解説します。

著作権法の概要

著作権法とは、創作物の創作者がその創作物に関する一定の排他的権利を有することを法的に保護するための法律です。著作権の対象となるのは文学、音楽、美術、映画、プログラムなど様々な分野の作品で、画像やイラストは著作権の焦点となる代表格とも言えます。

著作権には複製権や公衆送信権、さらに翻訳権などの権利が含まれ、これらの権利は一定期間、原則として創作者に属します。著作権が発生するためには、思想又は感情を具体的に表現したものでなければなりませんまた、作品が独創性を持ち、形に表出されている必要があります

日本国内の著作権に関する法律

日本における著作権は著作権法で定義されており、その保護期間は原則として創作者の死後70年です。しかし例外も存在し、たとえば共同で作られた作品や法人が発行する作品は、公表後50年が保護期間となります。日本国内では、著作権侵害に該当する行為は刑事罰の対象となることがあり、また私的使用のための複製等の一定の行為は合法とされる著作権法上の例外も定められています。

著作権侵害の要件は、以下の2点を両方満たすことが条件とされています。

作風や画風に関しては、著作権の対象になりません。なので、例えば画像生成AIで特定の画家の作風を指定して何かを描いてもらったとしても画風が似ているというだけで著作権の侵害にはなりません。

ただ、OpenAI社のDALL-E3に関しては、1912年以降のアーティストの作風は模倣できないと返してきます。それ以前のアーティストの作風であれば模倣してくれます。国によっても著作権の法律が異なるからでしょう。

ゴッホの作風で画像生成AIに作成してもらった画像

AIの著作権に関し日本では文化庁が議論を続け、2023年6月19日には「AIと著作権」と題したセミナーが開催され、次の資料が公開されています。

AIと著作権

また、2023年12月20日には「AIと著作権に関する考え方について(素案)」を公開しました。

生成AIで著作権のことを考える場合、大きくは以下2つのフェーズについて考慮する必要があります。

生成AIが情報源として利用する場合

2018年の著作権法改正の中の、著作権法第30条の4の規定により、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない場合、機械学習の情報源が日本の情報であれば、生成AIが学習元として利用するうえでは著作権の侵害にはなりません

(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

生成AIが生成するコンテンツ

生成AIが生成するコンテンツについては、学習元の著作物と類似のものを生成してしまうと著作権の侵害となるリスクがあります依拠性があるかどうかについては、その著作物を学習元としているかどうかによります

画像・イラスト生成AIの商用利用

画像・イラスト生成AIの商用活用には多様な可能性があります。デジタル広告、ゲーム開発、映像制作など、さまざまな業界での応用が期待されています。

ただし、上述の著作権のことについての考慮は外せないのと、それ以前に、そもそもサービスの利用規約において、商用利用を許容していない画像・イラスト生成AIサービスもあるので、まず利用規約を確認するようにしましょう。

利用規約上、商用利用ができない画像・イラスト生成AIサービス

主な画像・イラスト生成AIサービスの中で、以下サービスは利用規約によって、商用利用は許容されていません。

Bing Image Creator

Microsoft社が提供しているBing Image CreatorはOpenAI社のDALL-E3が用いられています。DALL-E3を本家のOpenAI社サービスであるChatGPT Plusで用いると月額20ドルが必要であるのに対して、Bing Image Creatorは無料で使えるのですが、ChatGPT Plusは商用利用できるのに対し、Bing Image Creator商用利用ができません。あくまでも私的な利用に留めるしかないのが現状です。

Midjourney(無料版)

Midjourneyで以前あった無料版は商用利用ができませんでした。現在は無料版自体がなくなっています。非常に高品質な画像やイラストを生成するのですが、有料版であっても、著作権を侵害し得る画像を生成するので、その観点で商用利用は慎重になった方が良いと言えます。
有名なキャラクターを試しに生成してみると分かると思います。著作権を侵害しそうな作品を生成します。

商用利用可能かつ著作権の観点で安心なツール

商用利用を想定したAIツールでは、利用規約内で使用範囲が明確に示されています。また、商用利用の際に重要となるのは、著作権を侵害しないように配慮されているかどうかという点です。

以下のサービスは、例えば有名なキャラクターを作成するように指示を送ってもコンテンツポリシーに反するため、エラーを返すか、著作権を侵害しない内容に変換して示すなどをします。

ただし利用規約は変更になる場合があるため、実際に商用利用される際は、その時の利用規約を確認するようにしてください。

DALL-E3

OpenAI社のDALL-E3は、利用規約で商用利用可能となっており、また著作権を侵害しないような配慮もされています。

Adobe FireFly

Adobe社のAdobe Fireflyも利用規約で商用利用可能となっており、また著作権を侵害しないような配慮もされています。

画像・イラスト生成AIの商用利用における著作権問題の事例

以下に、画像・イラスト生成AIサービスをめぐる論争の事例をご紹介します。

Getty ImagesによるStability AIへの訴訟

主要な有料画像サービスのひとつであるGetty Imagesは、Stable Diffusionの開発元であるStability AIに対して訴訟を起こしました。この訴訟では、Stability AIが許可なく数百万枚の著作権で保護された画像をAIの学習トレーニングに使用したとして、著作権侵害であるとGetty Imagesが主張しています。

訴訟は現在進行中で、Getty Imagesの主張の多くが棄却されている状況ですが、一部の主張は継続されています。

引用:Getty Images is suing the creators of AI art tool Stable Diffusion for scraping its content

この訴訟の結果は、今後の画像・イラスト生成AIサービスの将来に重要な影響を持つ可能性がありますが、DALL-E3やAdobe Fireflyのように、すでに出力内容の制限をうまくかけられているサービスへの影響は心配しなくても良いようには思っています。

アーティストによるStability AI、Midjourney、DeviantArtへの集団訴訟

米国でアーティストの3名がStability AI、Midjourney、DeviantArtを相手に著作権侵害で訴訟を起こしました。訴訟を起こしたのは2023年1月で、2023年10月30日、カリフォルニア連邦地方裁判所は一部の主張を除き、棄却しました。
棄却の決定打は出力内容が「実質的に類似していない」と判断されたところにあります。
ただし一部の主張は続いており、判決はまだ出ていません。

引用:
Artists File Class Action Lawsuit Against AI Image Generator Giants
MidjourneyとStability AIの著作権問題「実質的類似性」証明できず アーティストたちの訴え棄却

画像・イラスト生成AIを用いた作品に著作権はあるのか?

上記は、画像・イラスト生成AIによる第3者の著作権の侵害が焦点ですが、画像・イラスト生成AIによって生まれた作品に著作権はあるのか、というのも重要な視点です。もし著作権があるとすれば、同一のツールを使った他のユーザーの著作権のことも考慮しなければなりません。

米国では、Midjourneyに少なくとも624回のプロンプトを入力し、その後画像編集ソフトで修正も加えたと主張され、コンペで優勝した作品の著作権の申請に対して、却下した事例があります。

今後の展望と法改正の動向

業界の未来予測

AI技術の進歩は著しく、画像・イラスト生成AIの進化もまた瞬く間に起こっています。産業界においてAIを活用したイノベーションはますます加速し、多様なビジネスモデルが登場しています。例えば、広告業界におけるパーソナライズ広告の生成、エンターテインメント分野でのキャラクターデザインなど、画像生成AIの商用活用は無限の可能性を秘めていると考えられています。しかし、これらの応用は著作権法の範囲内で行われる必要があり、法的な規制とのバランスが重要な課題となっています。

国内外の法制度と政府の取り組み

現在、多くの国で著作権法についてAIに合わせて見直され始めています。日本では上述の通りすでに文化庁から説明がされるところまで至っていますが、まだ議論は続いています。政府は、画像生成AIの商用利用を推進する一方で、クリエイターの権利保護を確実にするための方策を模索しており、近い将来の法改正が予想されます。

AI技術の進化と著作権法の調和

著作権法は元来、人間の創作活動を保護するために作られたものですが、AIによる自動生成した画像・イラストについては、これまでの法体系ではカバーしにくい側面があります。今後は、AIが創り出したコンテンツに対する新しい著作権のあり方が模索されることとなるでしょう。最終的には、AIと人間の共同作業による作品に関して、公正な利益分配と著作権の帰属を明確にするための法的枠組みが確立されることが期待されます。

カテゴリー現在の法的状況予想される法改正ポイント
商用利用ライセンス契約に基づく使用が主流AI生成コンテンツの定義と著作権帰属の明確化
クリエイター保護人間の創作物のみが保護の対象AIと人間の共作に対する保護規定の導入
国際協調国ごとに異なる著作権法の取り扱い国際標準の策定と各国法の調和

著作権と、これからのクレイエイターのあり方について個人的に考えること

著名な作家、芸術家であっても、ゼロからモノを生み出しているわけではないと思います。参考としているか、少なくとも影響を受けている作品はあるはずです。脳内にそれまでに見てきた作品の記憶があり、それをもとに新たな創作活動をしているわけであって、ただし倫理に基づいて類似性のある作品は生まないようにしています。

AIの取り組みはそれと同じだと思います。人は意図せず類似性のある作品を生んでしまう可能性があります。むしろAIの方が、著作権を侵害しないということさえ、人よりも正確にやってのける可能性を秘めているかもしれません。

多くのクリエイターは、画像・生成AIにより仕事の機会が奪われるのではないか、ということについては、そうだろうと思います。実際のところ、この記事に使っている画像・イラストはすべて生成AIによるもので、以前よりも画像ダウンロードサービスの利用機会は減りました。

ただしこれをチャンスとして捉え、生成AIで生成した画像・イラストをさらに人の手によって加工するサービスであるとか、色々とビジネスは考えられますので、いつの時代であっても、時代の変化に適応するしかありません。

最も強い者が生き残るのではなく、
最も賢い者が生き延びるのでもない。
唯一、生き残るのは変化できる者である。

ダーウィンの進化論

まとめ

画像生成AIの商用利用は多くの可能性を秘めていますが、著作権の遵守がカギとなります。心配の必要性が小さくて済むサービスを選定し、また人によるチェックは行ったうえでの活用を行うようにしましょう。

著者のイメージ画像

株式会社BringFlower
稲田 高洋(Takahiro Inada)

2003年から大手総合電機メーカーでUXデザインプロセスの研究、実践。UXデザイン専門家の育成プログラム開発。SEOにおいても重要なW3Cが定めるWeb標準仕様策定にウェブアクセシビリティの専門家として関わる。2010~2018年に人間中心設計専門家を保有、数年間ウェブアクセシビリティ基盤委員も務める。その後、不動産会社向けにSaaSを提供する企業の事業開発部で複数サービスを企画、ローンチ。CMSを提供し1000以上のサイトを分析。顧客サポート、サイト運営にも関わる。
2022年3月に独立後、2024年4月に株式会社BringFlowerを設立。SEOコンサルを活動の軸に据えつつ、AIライティングツールの開発と運営を自ら行う。グッドデザイン賞4件、ドイツユニバーサルデザイン賞2件、米国IDEA賞1件の受賞歴あり。