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ペルソナは必要ない?ペルソナ設定の時代は終わった?そう思わないようにするためのペルソナとは何かの理解とペルソナ設定のコツ

ペルソナという言葉を聞いたことがあるし、なんとなく概念は分かるけど、具体的にどうすればよいのか、どういう効果があるか分からない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私はペルソナを実案件の中で作成し活用した経験を多く持ちます。ここでは、具体的な例を交えて、実用的な使い方と効果について解説します。

また、「ペルソナ設定の時代は終わった」という検索キーワードで調べている方が多いので、その考え方に対する私の考えを述べたいと思います。

ペルソナとは?

ペルソナとは、年齢、ミッション、目標、経済力、趣味、性格などが具体的に定められたターゲット像を指します。年代、性別などマスでターゲットを捉えるのではなく、具体的に定めることで実在するリアルなニーズを捉えた商品・サービスの開発が可能となります。

マーケティング、UXデザインなどにおいて「ペルソナ」を作成してプロジェクトを進める手法が用いられます。当方の現在の主要事業であり、得意とするSEO対策もマーケティングの一つですが、SEO対策においても、やはりペルソナ策定が重要とされています。

ちなみに、弊社が開発・提供するSEOに強いAIライティングツール「BringRitera(リテラ)」も、「誰が」「どのような検索意図をもって」「顕在的にどのような情報を知りたいのか」「潜在的に興味のあることは何か」ということを踏まえて記事を書きます。

なお、ペルソナは一般的には「ターゲット像」とされていますが、ペルソナを策定すべきなのはターゲットだけとは限りません。ターゲットを取り巻くステークホルダーも策定するべきです。詳細は後述します。

ペルソナの語源

ペルソナはラテン語の「persona」に由来していて、ヨーロッパの古典劇において役者が使う「仮面」を意味した言葉です。スイスの精神科医・心理学者であるユングが心理学における用語として提唱したのが始まりです。

つまり、ユングによる「ペルソナ」の定義は、「自分自身の内側に潜む本来の自分そのものではない、他者との交流の際に現れる自分」でした。

それと、ここでご紹介するペルソナの本質とは異なります。ここでご紹介するペルソナは、それが内面からくるものであっても、例え外面だけのものでったとしても、商品・サービスを開発する上で重要かどうかで、把握の必要性を判断します。

ペルソナのメリット

以下にペルソナを策定する意義を紹介します。

プロジェクト関係者間におけるターゲット像認識のズレを軽減

ペルソナの最大のメリットは、プロジェクト関係者間におけるターゲット像認識のズレを軽減することにある、というのが私の経験知です。

ペルソナを策定しないプロジェクトにおける最も悪いケースでは、抽象的なレベルでさえもターゲットが関係者に共有されていません。最も悪いとは言っても、そういうプロジェクトが実は多いのではないでしょうか。

ここで言う抽象的なレベルのターゲットというのは、例えば次のような記述です。

  1. 飲食店のオーナー
  2. 飲食店の店長
  3. 飲食店の料理長

例えばの話ですが、この中の誰に最も重点を置いているのか?というレベルのことだけでも認識がズレることがあります。関係者が、ターゲットが不明だからプロジェクトリーダーなどに聞く、という行動を取れればいいのですが、大抵はそうなりません。人というのは、勝手に自分の中にターゲット像を持つもののようで、その結果として関係者間で認識がずれて、コミュニケーションロスが生まれます。

例えば、サポート部門はITリテラシーの低い人を多く相手にすることになるので、ターゲットとするユーザーもそうなのだろうと思っているとします。

しかしそれだと、サポートのコストもかかりますし、より上位プランに申し込んでもらいたいプロジェクトリーダーは、もっと違う顧客像を頭の中に描いていたりします。

この両者がターゲット像を共有しないままの場合、どのようなことが起こると思いますか?

サポート部門は、サポートをおざなりにしたサービスのバージョンアップ内容に不満を持ち、一方のプロジェクトリーダーは、実際のユーザーを知らないまま。そんな状況が続けば次第に両者には溝が生まれていきます。そもそも、プロジェクトリーダーが描いているターゲット像が正解とも限りませんし、まずどのような人物像があるのかを洗い出すということも重要です。

ターゲット像の解像度を高めることで細かいニーズを把握できる

上述した「飲食店のオーナー」という記述だけの場合に比べて、以下のような記述の方がより具体的にユーザーのことを考えることができます。

  • 女性、57歳
  • 複数の飲食店を経営、お店に顔を出すこともあるが日中は取引先と会うことが多い
  • ITリテラシーは高くなく、お店のウェブサイトなどは外注先に丸投げ
  • スマホは普通に使っていてSNSでのやり取りは頻繁に行うが、ウェブサービスへの登録、クーポンの利用などは億劫に感じてやらない
  • お店のメニューは自分でも考えるが、料理長、店長の意見を尊重したいと思っている
  • 料理長の料理は美味しいと思っていて、どうやって料理長の料理を知ってもらえるかを考えている
  • お店維持のためにも売上が第一、お店の立地が悪く、集客で悩んでいる

例えば飲食店向けに、従業員のシフトやメニュー、料金、仕入れ金額、売上、在庫などを管理できるようなシステムを検討するとした場合に、このような記述があると、「オーナーがスマホで簡単に確認できるようなものが良いだろう」、「集客のヒントになるような情報が提供できればよいかもしれない」というようなイメージが沸いてきます。

製品・サービスのコンセプト、方向性が定められる

ペルソナは作成する段階から、その意義を大きく発揮します。プロジェクト関係者の主要なメンバーで集まって一緒に議論をしながらペルソナの詳細を詰めていくことで、関係者間の共通認識が生まれるということもありますし、ペルソナを複数作って優先順位を付けることが大切です。

そうすることで、「誰の」「どういうニーズに対して」「何を解決し、どういう価値を提供する」製品・サービスなのか、というコンセプト、方向性が定められます。

ペルソナを策定せずにプロジェクトを進めるとどうなるかというと、プロジェクトメンバーが想定する様々なターゲット像を踏まえたニーズが取り込まれ、コンセプトが定まりません。ある部分はある人(ペルソナAとします)のニーズを捉えていても、また別の部分は別の人に向けたものになっていて、ペルソナAにとって必要のない、むしろ相反する内容になってしまうことがあり得ます。

相反するということがないとしても、多機能なシステムでは機能が多ければ多いほど、ユーザーにとって機能の選択を迫られる場面が増えることになるので、ユーザビリティは低下します。少なくともそこには、自分にとって必要な機能を探すという行為が生まれることになります。

私は次のようによく言います。

全てのニーズを満たそうとすると、誰のためのものでもないものになってしまう

丸めるな、尖らせろ

ペルソナのデメリット

ペルソナ設定にあり得るデメリットについて述べます。

時間がかかるので費用対効果を考えるべき

ペルソナ作成のデメリットは、時間が相当にかかるということです。うまく進めないと、時間をかけた割に作成した効果をプロジェクトメンバーが感じられないということにもなりかねません。

目的はペルソナを作成することではなく、上述したようなことを達成することにあるので、プロジェクトの性質、メンバーなどに応じて、必要最小限のステップを踏んで目的を達成するということも考えるべきです。

たった1人のペルソナに固執しすぎてしまうリスクがある

人は多種多様、だからこそ年代、性別などマスで捉えても本質が捉えられないため、ペルソナ設定の価値が訴求されてきたという流れがあります。人の価値観や背景が多種多様化した時代にペルソナの考え方は合わないのではないか、という意見を目にしたことがありますが、ペルソナが訴求されてきた背景からして、そういうことはないでしょう。

後述しますが、ペルソナは1人だけ作るものでもないですし、必要な数だけ作ります。大事なのは、どのくらいターゲットが多種多様なのかをまず把握し、その中で優先順位をつけることであって、たった1人のために作らなければならない、ということではありません。

たった1人を想定して開発して成功した、という事例もあるため、そういうものだと勘違いしている人もいるかもしれませんが、1人に絞る必要はないのです。

また、ペルソナのシーンを把握することも重要です。シーンを把握するフレームワークとしてはカスタマージャーニーマップが有名です。人ではなくシーンで捉えるべき時代というような意見もあるようですが、人とシーン、両方を把握し考えるべきだと私は思います。

なので、冒頭で触れた「ペルソナ設定の時代は終わった」ということはありません。

ペルソナの作成方法と手順

ペルソナは、ないよりはあった方が良いでしょう。あまり時間がかけられない場合は簡易的にでも、誰かがペルソナを作成して、それを関係者に共有して議論をする時間を設けた方が良いです。

以下は時間をかけて理想的なペルソナを作成していく場合の手順です。

大まかにターゲット層を定める

まずプロジェクトリーダーは大まかにでもターゲット層を定める必要があります。たたき台も無しにペルソナを関係者と作ろうとしても、それは無理があります。以下は方向性を決めるのに役立つ、マーケティングの基本とも言えるフレームワークです。

3C分析

3C分析は「顧客(Customer)」「自社(Company)」「競合他社(Competitor)」の3つの視点で市場環境を分析するフレームワークで、マーケティングの基本とも言えます。

顧客は何を求めているか、自社の強みは何か、競合の強さはどうか、この3つの視点で自社の機会を考えます。飲食店向けのシステムを考えるならば、飲食店業界の課題は何なのか、自社の強みを活かせるのか、飲食店業界向けのシステムを提供している会社の動向調査などです。

SWOT分析

SWOT分析は、「自社の強み(Strength)」「自社の弱み(Weakness)」「市場の機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4つの視点を洗い出して検討するフレームワークです。

4P分析

4P分析は、「商品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「販促(Promotion)」の4つの視点を考えるフレームワークです。

PEST分析

PEST分析は、「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つの視点で外部環境の自社にもたらす影響を分析するフレームワークです。

飲食店向けで考えれば、新型コロナの影響、補助金の対象としてどうなのか、外国人観光客の数や嗜好、Uberなど、そのようなことを考えるのがPEST分析です。

情報、データ収集

大まかな方向性を決めたら、まずは自社内の有識者や、社外でも聞ける人がいればヒアリングして、情報を得ましょう。そこで、定量的に把握すべきことがあれば項目を洗い出します。

次にアンケート調査を行い、クラスター分析と因子分析という統計処理を用いて分類をします。

分類できたら、各カテゴリーに属する人を対象にインタビュー調査を行います。1カテゴリーにつき3人ぐらいインタビューできると良いでしょう。

各カテゴリーのボリュームを把握しておくことも重要です。

ペルソナの骨子を作る

各カテゴリーに属する人物像の特徴を挙げます。また、ターゲットだけではなく、ターゲットを取り巻くステークホルダーについてもまとめます。

飲食店向けの管理システムを検討するならば、飲食店のオーナー、従業員だけではなく、仕入れ業者、飲食店に訪れるお客さん(消費者)、店舗のビルオーナーなども必要に応じて検討します。
そうすることで、商品・サービスを検討する上で必要な視点の抜け漏れを防ぎます。

ペルソナシートの作成

ペルソナは関係者と共有してその効果を発揮するものなので、文字だけだと伝わりづらいという難点があります。

イメージが沸きやすいように顔写真やキャッチフレーズなども含めながら、A4、ないしはA3で1枚くらいに収まるようにまとめます。

名前(リアルに)、年齢、性別、職業、業務上のミッション、目標、収入、家族構成、居住地、趣味、休日の過ごし方、利用端末などの基本的な人物像と、検討する商品・サービスにまつわる基本項目ごとにまとめると良いです。

典型的な1日の流れや、1週間の流れなどでまとめるやり方もあります。

ここで、その人物が属するカテゴリーがボリュームとしては全体の中のどのくらいを占めるものなのかも示すと良いでしょう。必ずしもボリュームが多い人物を狙うべきかというと、そうとも限りませんが、参考情報として重要ではあります。

ペルソナは必要な数だけ作る

ペルソナは何人作るという風に決まっているわけではなく、そのプロジェクトにおいて必要な数だけ作ります。すべてに同様の時間を費やすのではなく、ある程度事前に優先順位を決めて、簡易的にしておくペルソナがあっても良いでしょう。

人は勝手にターゲット像を作り上げるものですが、それは単に、他の人物像を知らないだけだから、というのが理由であることも多いです。人物像を洗い出すことで、そのことに気付かせるという効果もあります。

ペルソナに優先順位を付ける

ここまでの内容も、できるだけプロジェクト関係者と一緒に検討することが望ましいと言えます。そうすることで様々な視点が含まれますし、一緒に検討することで、ペルソナの共有が自然となされます。

とはいえ関係者が集まるのが難しいプロジェクトもあるでしょう。その場合も、少なくともペルソナの優先順位を決めるところは一緒に議論するようにします。

定期的にペルソナを見直す

ターゲット像は時と共に変わるものですし、プロジェクトの方向性が変わることもありますので、ペルソナは一度決めたらそれで決定という風にせずに、必要に応じて見直すようにします。

ChatGPTの活用

「飲食店向けに、従業員のシフトやメニュー、料金、仕入れ金額、売上、在庫などを管理できるようなシステムを検討します。 そこで、ペルソナを必要な数だけ作ってください。」というような雑なプロンプトでもChatGPTは5つ、それっぽいのを答えてくれたので、色々質問の仕方も変えつつ、ぜひChatGPTも活用しましょう。

上記の質問の後に、以下のようなプロンプトで、さらに具体的なペルソナ案をChatGPTは示してくれます。

あなたはマーケティングのプロです。飲食店向けに、従業員のシフトやメニュー、料金、仕入れ金額、売上、在庫などを管理できるようなシステムを検討します。飲食店オーナーとして、以下のようなペルソナを設定したいです。もっと具体的に理想的なペルソナを記述してください。
・女性、57歳 ・複数の飲食店を経営、お店に顔を出すこともあるが日中は取引先と会うことが多い
・ITリテラシーは高くなく、お店のウェブサイトなどは外注先に丸投げ
・スマホは普通に使っていてSNSでのやり取りは頻繁に行うが、ウェブサービスへの登録、クーポンの利用などは億劫に感じてやらない
・お店のメニューは自分でも考えるが、料理長、店長の意見を尊重したいと思っている
・料理長の料理は美味しいと思っていて、どうやって料理長の料理を知ってもらえるかを考えている
・お店維持のためにも売上が第一、お店の立地が悪く、集客で悩んでいる

ChatGPTが上記プロンプトで示したペルソナ。

ペルソナ名: 美香さん

年齢: 57歳

背景:
美香さんは都内で複数の飲食店を経営している実績あるレストランオーナーです。飲食業界での経験は長く、店の立地や流行の変遷、スタッフの管理など多くの課題を経験してきました。

日常:
お店には定期的に顔を出すものの、日中は取引先との会合や新しい仕入れ先の探索で忙しい。そのため、具体的なオペレーションは店長や料理長に任せきり。彼らとのコミュニケーションはLINEやWhatsAppを利用している。

技術に対するスタンス:
パソコンや専門的なITツールには不慣れ。お店のウェブサイトやマーケティングは外部の専門家に任せている。しかし、スマホの基本操作は得意で、友人や家族、ビジネス関係者とのコミュニケーションのためにSNSを日常的に使用している。

価値観や意識:
お店のメニューには自らのアイデアも取り入れたいが、実際の運営は料理長や店長に委ねるスタンス。料理長が作る料理のクオリティは非常に高く評価しており、その料理をより多くの人に知ってもらう方法を常に模索している。

課題:
特にあるお店の立地が悪く、集客に苦労している。また、料理のクオリティは高いが、それをうまくアピールできていないと感じている。売上の向上を第一に考えており、効果的なマーケティング手法や新しい流入ルートの開拓を求めている。

ペルソナはリアルな名前を付けた方が実在する人物として関係者が認識しやすいというのがあります。鈴木さんや佐藤さんといったありがちな名前を与えてしまいがちなのですが、ChatGPTが示してくれた美香さんという名前は、そのあたりのことは踏まえてくれていると思います。

まだまだ記述が足りないですが、もっと足してとお願いすれば足してくれます。

まとめ

ペルソナの作り方やコツについて紹介しました。SEOを目的としたコンテンツマーケティングにおいても、読者のことを具体的にイメージしたうえで書くというのが重要なので、ペルソナ作成について触れられることが多いのですが、ペルソナのメリットの一番は関係者間のブレを軽減するというところにあるので、関係者の数にもよるというところです。

大規模なメディアを立ち上げて、多くのライターで記事を書いていくというのであれば、読者層がブレて、またGoogleのそのメディアに対する評価軸が定まらない、ということが起こらないようにペルソナを作ることも大事となるでしょう。

逆に、極端な話、自分一人が知っていればよいという状況であれば、自分の頭の中で具体化すればよいということになりますので、必要に応じて、必要なコストをかけるということも大事です。

ペルソナを作成することが目的とならないように、ペルソナを作成する目的を見失わないようにしましょう。

著者のイメージ画像

株式会社BringFlower
稲田 高洋(Takahiro Inada)

2003年から大手総合電機メーカーでUXデザインプロセスの研究、実践。UXデザイン専門家の育成プログラム開発。SEOにおいても重要なW3Cが定めるWeb標準仕様策定にウェブアクセシビリティの専門家として関わる。2010~2018年に人間中心設計専門家を保有、数年間ウェブアクセシビリティ基盤委員も務める。その後、不動産会社向けにSaaSを提供する企業の事業開発部で複数サービスを企画、ローンチ。CMSを提供し1000以上のサイトを分析。顧客サポート、サイト運営にも関わる。
2022年3月に独立後、2024年4月に株式会社BringFlowerを設立。SEOコンサルを活動の軸に据えつつ、AIライティングツールの開発と運営を自ら行う。グッドデザイン賞4件、ドイツユニバーサルデザイン賞2件、米国IDEA賞1件の受賞歴あり。